『何のつもりか分からないが、いつまで私の寝床の上に立っているつもりだ……!』
 ドシドシと荒々しい足音を立てながら、ルギアは機械に近付く。相対的に大きくなっていく機械にルギアは物怖じしそうになるが、相手は動かぬ木偶の坊だと思い込む事で、歩みを止めずに済んだ。
『……』
 そしてルギアは機械の前に立った。ルギアの頭は機械の太ももの辺りにしか届かず、本能的に後退しそうになる。だがそれを理性で抑え込み、ルギアは機械の足に両翼を押し付けた。
『ぐ……!』
 ルギアはポケモンの中でも相当体重がある方だが、今押している機械は比べ物にならない程重いようで、いくら力を入れてもピクリとも動かない。
 しばらくの間、ルギアは押したり引いたりと試したみた。が、砂粒一個分も動く気配が無かったので、ついに諦めてしまう。
『……下からでは無理と言うなら』
 ルギアは一歩下がると、翼を羽ばたかせた。そしてその巨体を一気に持ち上げると、機械の頭の真ん前でホバリングする。
 機械の頭には透明な円形の板が貼り付けられていた。ルギアは少ない人間についての知識を手繰り寄せて、それが何かを記録するために使われる物だと思い至る。昔、海に潜ってきた人間が同じような機械を手にしていたのを思い出したのだ。
『とすると、これは何かを記録する機械か?』
 それにしては随分大仰だなとルギアは思う。かつて人間が手にしていた物も、ここまでは大きくなかった。
 何にしても、この機械の使い手は、この人工の目を通して今の惨状を見ているという事だ。
 もしこの機械の向こう側で人間が笑っているとしたら。
 そんな事を考えてしまったルギアは、何もせず現状に甘んじている事が出来なくなった。
『このような機械は恐らく価値が高いだろう……そんな物で私のねぐらを壊した事を……』
 ルギアは首をのけぞらせながら大きく息を吸い込む。深海に潜るため、強大な肺機能を持つルギアの体内で、空気がどんどん圧縮された。
『後悔させてやる!』






 凝縮され高密度になった空気が、ルギアの口から放たれた。
 直進性を保つため、竜巻のように回転した空気弾は、狙いを過たず機械の頭部に直撃。乱れが生じた渦が解放され、爆発と紛うほどの暴風が吹き荒れた。
 バランスの悪い頭部を攻撃され、機械の体勢が崩れる。ゆっくりと傾いていく機械を見ながら、ルギアは勝利の愉悦に浸った。
 その時だ。機械の右腕が動いたのは。

 

 

『っ!?』
 今までピクリとも動かなかった右腕が、反応出来ないほどの速度で動き、ルギアを鷲掴みした。いきなり胴体を絞め上げられ、ルギアは『ぐぁっ!!』、と思わず情けない声を上げる。


戻る  続く